先日アメリカのマサチューセッツ州サマービルで巻き起こった「猫の市長選(Cat Mayoral Race)」のニュースを見て思うことがあり、このニュースを深堀してみようと思います。ニュース記事はこちら
このニュースが単なる面白い猫のニュースではなく、その熱狂がチャリティーへと昇華された、アメリカの地域社会を象徴した話題だなと思うんです。日本のたま駅長ほか有名な猫さんとは少し違うアプローチというか、動物を介して地域社会を活性化させ、最終的に動物福祉のためのチャリティー資金を集めるという、イベントとなりました。サマービル市の事例を通じて、この話題のチャリティー的な側面を深く掘り下げます。
1. サマービル「猫の市長選」の熱狂、選挙戦のきっかけ
サマービルのコミュニティ・バイクパスで始まったこの選挙は、一匹の猫「ベリー」を巡る騒動から火が付きました。元々、ベリーの飼い主が、彼女が迷子ではないことを近隣住民に知らせるため、ベリーを「バイクパスの市長」と記したポスターを掲げたのが始まりです。このユーモラスな行動が、他のペットオーナーの対抗心に火をつけ、最終的には73匹ものペットが立候補する一大イベントへと発展しました。
1.1. 過激な公約と風刺が彩る熱狂的な選挙戦
選挙戦は人間の政治を模した風刺に満ちていました。
内向的な勝者「ミネルバ」の挑戦的スローガン:
当選を果たした「ミネルバ」は、「CRIME(犯罪)」というたった一言のスローガンで、多くの支持を獲得しました。これは、地域社会の不安や、複雑な政治家では解決できない問題への住民のシニカルな感情を反映していると解釈されました。
選挙のきっかけ「ベリー」陣営のユーモラスな主張:
この選挙のきっかけとなった猫「ベリー」の陣営は、「猫の優位性を確かなものにし、地域社会を猫主義の下に団結させる」という公約を掲げ、犬やカメなど他の動物候補を牽制しました。彼女はまた、自身の猫砂を再利用し、「環境に優しいリーダーシップ」を主張するという、現代政治のトレンドを皮肉る側面も見せました。
「シンプルさ」の勝利を訴える「コーベン・ダラス」:
人間の現職市長の家族猫である「コーベン・ダラス」は、「Naps. Tuna. Pets.(昼寝、ツナ、撫でてもらうこと)」という、人間の政治的利害とは無縁のシンプルで純粋な願望を公約とし、政治家たちの複雑すぎる公約との対比を際立たせました。
猫以外の異色な候補者たち:
この選挙の多様性を象徴するのが、猫以外の候補者たちでした。例えば、チワワの「ピコシータ」は、小型犬ならではの愛らしさで支持を集めました。さらに、リクガメの「ナギ」も出馬し、「ゆっくりと、しかし着実に前進する」という、停滞した政治状況への皮肉ともとれる公約を掲げました。彼らの参加は、この選挙が「猫vs猫」ではなく、「全ペット対人間政治の風刺」という構図であることを示しました。
選挙期間中には、ベリーの看板が盗まれるなどの「ダーティーな戦術」や、候補者「パイレーツ」がレース途中で急逝するという悲劇まで発生し、住民たちはこの「真剣な政治ごっこ」を心から楽しみました。この一連のドラマは、地域の住民がユーモアと情熱を持って交流する絶好の機会となりました。こういうことを真剣にやっちゃう国民性が本当にすごいですよね。
2. 選挙の核心:投票券が向かうチャリティーと地域貢献
この「猫の市長選」が単なるお祭り騒ぎで終わらない最大の理由は、そのチャリティー性にあります。投票はサマービル市民に限定されましたが、投票券(投票参加費)を購入するという行為が、直接的に地域への貢献に繋がる仕組みが核となっていました。
投票券の明確な使途: 住民が投票券を購入する際に支払った費用や、関連グッズの販売収益などは、すべて地元のチャリティーとして使われます。この種のイベントの収益は、動物保護団体やシェルター、地域のコミュニティ支援活動への寄付を目的としています。サマービルの選挙においても、投票参加のために支払われた費用は、動物の保護と福祉を支援するチャリティーとして活用され、動物の命を守る活動に貢献しました。AKBとかの握手券欲しさにCDを大量買いするよりも、健全なお金の使い方ですよね。
「責任ある遊び(Responsible Fun)」の精神:この仕組みは、住民が楽しみながら、動物愛護という共通の目標を達成し、地域の課題解決に貢献するという、アメリカ特有の市民精神に基づいています。名誉市長の座は、集まったチャリティーの金額によってその重要性が決まると言っても過言ではありません。このイベント自体が、動物福祉啓発の強力なツールとして機能しました。
町のシンボル化:チワワの「ピコシータ」やカメの「ナギ」など、猫以外のペットまでが立候補し、それぞれが「バニーや小鳥のために戦う」という公約を掲げることで、町全体が一体となり、このイベントを歓迎している様子が伝わってきます。
3. アメリカにおける「動物名誉市長」文化の定着と役割
ペットを名誉市長(Honorary Mayor)に選出する文化は、サマービルに限らず、アメリカの特に人口の少ない小さな町で広く定着しています。
観光資源と経済効果
アラスカ州タウキートナで名誉市長を務めた猫のスタッブス(Stubbs)は、その愛らしい存在がニュースとなり、町に観光客を呼び込む強力な経済効果を生み出しました。
ミネソタ州コーモラントでは、犬のルーク(Duke)が名誉市長を務め、その活動が広く報じられています。
役割
彼らの役割は、政治的な決定権を持つことではなく、町の知名度向上、観光客の誘致、そして動物福祉の啓発にあります。彼らの存在は、「汚職とは無縁で、愛らしい」という、人間社会の複雑な政治から離れた、理想のリーダー像の投影なのです。動物たちの純粋な行動とメッセージは、政治への疲弊感が増す現代社会において、人々に大きな癒やしと希望を与えています。
まとめ
いかがでしたか。サマービル市の「猫の市長選」は、単なる面白いニュースではなかったですよね。日本では、たま駅長や尾道市立美術館のケンちゃんのような話題を集めるニュースを目にすることはありますが、そんな彼らをモチーフにしたグッズ販売は行われているでしょうが、サマービルのように積極的に彼らを前面に押し出したチャリティーイベントで動物保護を支援する資金を集めたり、動物福祉の啓発とまでは発展していないと思います。また、投票率が低い、選挙に興味がない人にとって、このような選挙に参加するのは、実際の政治に興味を持つきっかけにもなる面白い活動だと思います。
市町村単位でなくても、もっと小さなコミュニティや保護施設でこのようなイベントをするのも面白いのかなと、インスパイアされたニュースでした。
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