悲劇を未然に防ぐ!神奈川県発、多頭飼育崩壊を防ぐ画期的なシステム「ペットリエゾン」とは

冒険の心得

近年、自宅で多数の動物を飼育しきれなくなる「多頭飼育崩壊」が全国各地で深刻な社会問題となっています。これは単なる動物愛護の問題ではなく、悪臭や衛生環境の悪化を通じて近隣住民の生活を脅かす複合的な問題です。従来の行政対応は「崩壊後」の動物保護が中心となり、根本的な解決には至りませんでした。

このような背景から、神奈川県では、悲劇を未然に防ぎ、地域社会と動物の安全を守るための画期的な予防・連携システム「ペットリエゾン(Pet Liaison)」を構築しています。この記事では、この「ペットリエゾン」がどのような仕組みで多頭飼育崩壊を防いでいるのかを解説します。

1. 「ペットリエゾン」とは?—予防と連携の新しいカタチ

「リエゾン(Liaison)」とは、フランス語で「連携」「橋渡し役」を意味します。神奈川県の「ペットリエゾン」システムは、その名の通り、多頭飼育崩壊が起きる「予兆段階」で関係機関が連携し、飼い主とペットを支援するためのシステムです。

神奈川県は、2015年に施行された「神奈川県動物の愛護及び管理に関する条例」に基づき、この問題への対策を始め、2018年にはこの複合的な連携システムを本格的に運用開始しました。

1.1. 連携の要:多職種協働による支援の枠組み

ペットリエゾンが目指すのは、動物の問題を「人間の福祉の問題」として包括的に捉えることです。動物愛護センターが窓口となり、福祉、清掃、環境、獣医師会など多様な専門職種を巻き込み、シームレスに支援へとつなぎます。

【法的拘束力について】
ペットリエゾン自体は、新たな法的拘束力を持つ制度ではありません。あくまで、関係機関が連携・協働するための「支援の枠組み・ガイドライン」として機能します。介入の基本は、飼い主の同意に基づく「アウトリーチ(訪問支援)」であり、強制力を持たない代わりに、信頼関係の構築を最優先とします。

2. 悲劇を食い止める「早期介入」のプロセス

ペットリエゾンシステムの効果は、「崩壊する前に動く」早期介入のプロセスに集約されます。

2.1. 予兆のキャッチとリスク評価

近隣からの「異臭」「鳴き声」に関する相談や、飼い主の孤立、不妊去勢手術の未実施による動物数の急増といった「予兆」がキャッチされます。愛護センターが相談を受けた後、すぐに福祉部門と連携し、「動物のリスク」と「飼い主のリスク」の両面から詳細なアセスメント(評価)を実施します。

2.2. 支援計画と「不妊去勢手術」の最優先実施

福祉の専門職が「アウトリーチ(訪問支援)」を行い、信頼関係を構築します。飼い主の困り感に応じたオーダーメイドの支援計画が策定され、特に不妊去勢手術を最優先で実施します。これにより、動物の増加を物理的に止め、崩壊の進行を食い止めます。

3. 神奈川県モデルの成果と他の自治体の状況

神奈川県の取り組みは、全国に大きな影響を与え、その成果は複数の側面から評価されています。

3.1. 成果:コスト削減効果

多頭飼育崩壊後の行政対応には、動物の緊急保護、医療費、自宅の強制清掃など、莫大な費用が発生します。ペットリエゾンは、早期の不妊去勢手術費用や福祉支援といった低額な「予防コスト」をかけることで、高額な「崩壊後の処理コスト」の発生を回避することに成功しています。実際数字として連携件数が増加しているのですが、これは、この「悲劇の未然防止」ができていることの裏付けです。

3.2. 全国への影響と他の自治体の状況

神奈川県がシステムを本格運用した後の2019年度(令和元年度)には、環境省と厚生労働省が連携し、多職種連携を推奨する事業を全国で開始しました。

しかし、現時点で神奈川県のように条例に基づき多職種が恒常的に関わる独自の「システム」を導入している自治体はまだ稀です。多くの自治体では、国の推進を受けて「多頭飼育崩壊対応マニュアル」の策定が進められていますが、これはあくまで具体的な事例発生時に「どのように動くべきか」を定めたガイドラインやマニュアル程度に留まっています。

まとめ

神奈川県のペットリエゾンは、多頭飼育崩壊という複雑な社会問題に対し、多職種連携による早期介入という新しいアプローチを提供する、日本におけるパイオニア的な仕組みです。動物の問題を福祉の視点から捉え直し、飼い主の孤立や生活困窮といった根本原因にアプローチすることで、悲劇の連鎖を未然に防ぎ、崩壊後の高額な処理コストを回避するという点で成果を出しています。多頭飼育崩壊は単なる動物保護の問題単体ではない、人の生活にもかかわる複合的な問題でもあるので、このように行政が対策を講じていかなければならいことで、他の自治体でも同じような試みが広がっていくと良いなと思いました。

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