前回の記事で、アメリカのサマービル市における「猫の市長選」が、ユーモアとチャリティーを両立させたお話をしました。以前、公職につく猫様についてご紹介しましたが、(伝説から現役まで!世界で活躍する「仕事猫」たち)ペットが公職を担う背景は、国によって大きく異なります。
今回は、アメリカのような「名誉職(シンボル)」的立場以外のパターン、イギリスの「実務職(公務員)」、そしてメキシコの「対抗馬(風刺)」という二つの事例を比較し、猫様が表舞台に立つことの意味を深堀します。
役割の比較:動機と選出方法の違い
コミュニティ主導型(アメリカ):ユーモア、地域活性化、観光であり、チャリティーはその発展形です。選出は住民投票や募金形式で行われ、地方自治の自由度とボランティア精神が背景にあります。
国家伝統型(イギリス):実務遂行と伝統維持であり、国家の象徴としての役割を担います。選出は公的機関による採用・任命が基本です。
政治批判型(メキシコ):政治腐敗への抗議と不満の代弁であり、動物が皮肉のシンボルとして擁立されます。
このように、イギリスは国家の伝統と厳粛な公務を、メキシコは政治不信からの抗議の役割をそれぞれ動物に託している点で、アメリカの例と明確な違いが見られます。
イギリス:中世から続く公的な「実務職」チーフ・マウサー
イギリスの首相官邸(ダウニング街10番地)に住む猫が担う職務は、アメリカの「名誉市長」とは全く異なります。これは、中世から続く歴史的な伝統に基づく公的な「実務職」です。
2.1. 恒久的な職務と公務の重み
正式な肩書は「チーフ・マウサー(Chief Mouser to the Cabinet Office)」、つまり内閣府のネズミ駆除官です。この役職は、政府の建物が穀物倉庫として使われていた背景から、その起源は16世紀にまで遡ります。
公式記録こそ1929年以降のものしか残っていませんが、ヘンリー8世の治世には既にネズミ駆除官として猫が雇用されていた証拠があり、特にトーマス・ウルジー枢機卿(Cardinal Thomas Wolsey)は、1515年頃に大法官としての職務を遂行する際、その猫を傍らに置いていたという有名な逸話が残されています。この歴史的な重みが、公費(ネズミ捕獲の実務に特化)から給与が支払われるチーフ・マウサーという職務の基盤となっています。
職務の継続性:この職務の本質は、個々の首相や政府に依存しません。現在のチーフ・マウサーであるラリー(Larry)は、2011年に就任して以降、首相が何人交代しても官邸を離れることはありません。この事実は、「公務員」としての職務の恒久性を象徴しています。
役割:彼らの役割は、地域のシンボルとなることではなく、「ネズミ駆除」という実務であり、これは官邸という国家の中枢における衛生管理と伝統維持に直結しています。ラリーの存在は、イギリス文化における厳粛な公務意識と伝統の重さを物語っています。
メキシコ:政治不信が生んだ「汚職への皮肉」
メキシコの一部の地域で見られる動物候補は、政治への深い失望と不信を背景にした「強烈な風刺」として機能しました。
猫「モリス」の登場と波及:2013年、ベラクルス州シャレリオ市の町長選に出馬した猫のモリスは、現職政治家への不満を持つ活動家グループによって擁立されました。モリスの公約「ネズミを食い尽くす」は、シャレリオ市を蝕む「汚職」という名の「ネズミ」を人間の政治家が駆除できないことへの痛烈な批判でした。この運動は波及し、シウダー・フアレスのロバやオアハカの犬など、他の都市でも同様の抗議票を投じるための受け皿となる動物候補が擁立されました。
国民の行動:この風刺的な運動は、有権者が「腐敗した人間候補に投票するよりはマシ」と感じ、抗議票や無効票を投じるための受け皿となりました。モリスがトップクラスの得票数を記録したこと(非公式な得票を含む)は、動物を「政治批判の安全な武器」として用いるという、メキシコの深刻な政治状況を映し出す事例となりました。
アメリカ:「ユーモア」と「実利」が結びつく名誉職
アメリカにおけるペット公職は、その出発点が「純粋なユーモア」や「地域の冗談」にあり、そこから「チャリティー」や「観光資源の創出」といった実利へと発展・統合される点に特徴があります。すべての事例が当初からチャリティーを主目的としていたわけではありませんが。
マサチューセッツ州サマービルにおける「猫の市長選」は、猫のベリーを中心としたユーモラスな運動が発端となり、その後、投票券を動物福祉への募金とするシステムへと昇華しました。また、ミネソタ州コーモラント村の犬「デューク」の任命では、1票1ドルの投票料が年次祭りの運営資金となるなど、「遊びながら地域に資金を投じる」というボランティア精神に基づいた、高度に洗練されたコミュニティ活性化ツールとして機能しています。
4.1. 「観光誘致」が主目的となった名誉職の事例
アラスカ州トーキートナの猫「スタッブス(Stubbs)」は、約20年間にわたり町の名誉市長を務めました。この就任は、対立候補がいない中で、住民が実体のない選挙を皮肉った冗談から生まれたもので、その真の目的は「観光客の誘致と町のシンボル化」でした。スタッブスは世界中に広まり、地域の経済活性化という実利を生み出しました。スタッブスの事例では、名誉市長就任自体はチャリティー目的ではありませんでしたが、彼が怪我をした際の治療費の余剰金が、地元の動物保護施設に寄付されました。つまり、個体の危機をきっかけにチャリティーが発生した点が、サマービルなどとは違ってますね。
まとめ
いかがでしたか。公務員、批判のシンボルといった役割をもつ猫様たちの活躍からそれぞれのお国のキャラクターや文化を垣間見たような気がします。私個人としては、アメリカの例のように、楽しんで猫様たちのためになるようなチャリティーイベントのようなことが日本でもあると良いのになと思いました。皆さんはどうですか?


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