マイクロチップの敗北―「装着済み」でも再会率が4割に留まるシステムの盲点

猫様との暮らし

先日のマイクロチップの記事の続編です。記事でこんな文章を書きました。

「全米獣医師会(AVMA)が53のシェルターで行った大規模調査によると、チップが入っていない猫が飼い主の元へ戻れる確率はわずか1.8%。対して、チップが入っている猫は38.5%と、約20倍もの差があるというデータが出ています。」

これって一見チップが入っている猫飼い主の元へ帰れるんだと思わせる内容なのですが、一度立ち止まってみたところ、これってそんなに確率が高くないのではないか?と思って深堀してみようと思いました。

「マイクロチップを装着すれば、迷子対策は完璧である」という認識は、現代の飼い主が陥りやすい最も危険な誤解です。システムの半分以上が機能不全に陥っているという現実は、日米問わず共通の課題です。

アメリカにおける「スキャンの壁」と高額な受診コスト

アメリカでチップ装着猫の再会率が低い最大の要因は、発見者が猫を保護して病院へ運ぶ際の「経済的・物理的負担」にあります。マイクロチップは外から見えないため、確認には専用リーダーを持つ専門機関へのアクセスが必要ですが、そこには「善意」を挫く現実があります。

アメリカでは、保護した猫にチップが入っているか確認してもらうためだけに動物病院へ行ったとしても、多くの場合「オフィス・ビジット(診察料)」が発生します。地域や病院にもよりますが、診察費用の相場は50ドル〜100ドル(約7,500円〜15,000円)程度かかることが珍しくありません。

ただ「善意で猫を保護した」だけの一般人が、自費で1万円近い診察料を払ってまでスキャンを依頼するかといえば、そのハードルは極めて高いと言わざるを得ません。

現場の運用における「スキャン機会」の欠如

日本においてもアメリカにおいても、来院した猫を「強制的にスキャンする義務」は獣医師に課せられていません。このため、再会を阻む最大の要因は「悪意ある占有」(※既に飼い主がいるとわかっていてても知らないふりをするという意味で)といった特殊なケースではなく、日常診療における「スキャンという工程の欠落」にあります。

獣医師にとって、来院した猫が「正規のルートで入手されたものか」を確認することは本来の業務ではありません。連れてきた人間が「知人から譲り受けた」「以前から飼っている」と主張すれば、わざわざ疑ってチップを確認する動機が現場にはありません。

極めて稀なケースとして、スキャンによって登録者と来院者が異なることが発覚した場合、獣医師には守秘義務があるため、即座に警察へ通報するといった踏み込んだ対応には法的な慎重さが求められます。しかし、それ以上に大きな問題は、「そもそも疑いを持たなければスキャンすらされない」という事実です。悪意がなくとも、拾った側が「迷子ではない」と思い込み、病院側もそれを前提に診察を始めれば、体内のチップは一生読み取られないまま「死蔵」されることになります。

なぜ「システム」は完璧ではないのか

マイクロチップは自ら位置を発信するGPSではなく、誰かに見つけてもらわなければならない「受動的」なデバイスです。この特性が、以下のようなシステムの機能不全を引き起こします。

アメリカの返還失敗例で最も多かったのは、チップの故障ではなく、データベースの登録不備でした。チップは入っているが飼い主が登録を完了していなかった、あるいは情報の更新を怠っていたケースが後を絶ちません。日本でも同様に、環境省の最新データベースに移行登録が行われていない古いチップは、たとえスキャンに成功しても、情報の照合先がないため飼い主へ繋がる糸はそこで途切れてしまいます。

完璧ではないシステムを「運用」で補完する

マイクロチップを機能させるには、システムの欠陥を補う飼い主側の具体的な戦略が必要です。チップが「目に見えない」以上、「チップ装着済み」を外見で伝える首輪や迷子札を併用することは、今や必須の防衛策です。これにより、発見者に「病院へ行けば元の飼い主に繋がる」という情報をあらかじめ提示し、病院へ連れて行くというアクションを促すことができます。

また、データベースを常に最新に保つことは、このシステムを稼働させる唯一の生命線です。どれほど高価なリーダーが用意されていても、出口となる情報が古ければ、愛猫があなたの元へ帰る道は閉ざされたままとなります。

まとめ

マイクロチップというシステムが抱える最大の弱点は、スキャンという「人間側のアクション」が介在しなければ機能しない点、そしてそのアクションには診察料という負担や、現場での運用における「確認不足」が伴う点に集約されます。チップを埋め込むことは決してゴールではなく、不完全なシステムを動かすための最小限の準備に過ぎません。そして、データベースの徹底した管理。この多重の備えがあって初めてマイクロチップは猫様をあなたのもとへ連れ戻す「命綱」としての真の価値を発揮するのです。決して万能ではなく、GPSでもないということですね。つい、チップさえ埋めて置けば大丈夫と思いがちですが、こういう現実も知っておくと良いかなと思いまとめました。ご参考になればです。

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