前回の記事では、FIV陽性の猫「りんご猫」について、FIV陽性=猫エイズを発症しているわけではなく、症状がないまま長く暮らす猫もいることを紹介しました。では、FIV陽性の猫を迎えるときに気になるのが、「ほかの猫にうつらないの?」という問題です。
すでに猫と暮らしている家庭では、FIV陽性の保護猫を迎えたいと思っても、先住猫への感染が心配で迷うこともあるでしょう。FIVは猫同士で感染するウイルスですが、同じ空間で生活しているだけで簡単に感染するわけではありません。今回はFIVの感染経路と、多頭飼いを考えるときに知っておきたいことを紹介します。
FIVの主な感染経路は「咬み傷」
FIVの主な感染経路は、猫同士の激しいケンカによる深い咬み傷です。感染猫の唾液にはウイルスが含まれており、相手を強く咬んだ際、傷口からウイルスが体内に入ることで感染する可能性があります。そのため、外で縄張り争いをする猫、特にケンカの機会が多い猫は感染リスクが高くなります。
昔、実家に白猫のサンジという猫がいました。半外生活をしていて、外でよくほかの猫とケンカをしては負けて帰ってきていました。当時はFIVの検査をしたわけではないので分かりませんが、今振り返ると、FIVに感染するリスクの高い生活だったのだと思います。
昔の田舎では、今ほど「猫は完全室内飼い」という考え方が一般的ではなく、サンジも自由に外へ出していました。今となっては申し訳なかったなと思います。
反対に、FIVは猫同士が近くにいるだけで次々に感染するようなウイルスではありません。FIV陽性の猫を見ただけで、「ほかの猫と絶対に一緒に暮らせない」と考える必要はないのです。
食器やトイレを共有してもうつる?
多頭飼いで気になるのが、日常生活での感染です。例えば、
* 同じ食器や水飲み場を使う
* 同じトイレを使う
* 一緒に寝る
* 鼻を近づけて挨拶する
* お互いにグルーミングする
といった行動です。こうした攻撃を伴わない通常の接触によるFIVの感染リスクは低いとされています。FIVは猫の体外では長く生存できないため、食器やトイレを共有しただけで感染が広がる可能性も低いと考えられています。ただし、「絶対に感染しない」という意味ではありません。特に注意しなければならないのは、やはり猫同士が激しく咬み合うような関係です。
FIV陽性猫と陰性猫は一緒に暮らせる?
では、FIV陽性の猫と陰性の猫を同じ家で飼うことはできるのでしょうか。猫同士の関係が安定していて、激しいケンカや咬みつきがない場合には、FIV陽性猫と陰性猫が同じ家庭で生活することは可能とされています。つまり、多頭飼いで重要なのはFIVの検査結果だけではなく、猫同士の関係性です。
仲良く生活している猫たちを、FIV陽性と分かったことだけを理由に必ずしも引き離す必要はありません。一方、新しくFIV陽性の猫を迎える場合は、最初から同じ空間に放すのではなく、一般的な猫同士の対面と同様、別室から始めて少しずつ慣らしていくことが大切です。相性が悪く、激しいケンカや咬みつきが続く場合には、生活空間を分けることも検討する必要があります。
FIVキャリア猫は完全室内飼いを
FIV陽性の猫は、完全室内飼いが基本です。理由のひとつは、ほかの猫への感染を防ぐためです。FIV陽性の猫が外でほかの猫とケンカをすれば、咬み傷を通じてFIVを感染させる可能性があります。また、室内飼いはFIV陽性猫自身を守ることにもつながります。外には、ほかの猫とのケンカによるケガだけでなく、さまざまな感染症や寄生虫、交通事故などのリスクがあります。FIVは免疫機能に影響を与える可能性があるため、新たな感染症にさらされる機会を減らすことも重要です。
FIV検査は一度で判断できないこともある
保護猫の譲渡前などには、FIVとFeLV(猫白血病ウイルス)の検査が行われることがあります。一般的なFIV検査では、血液中のFIVに対する抗体を調べます。ただし、検査をした時期や猫の年齢によっては、一度の結果だけで判断できない場合があります。特に子猫では、FIV陽性の母猫から受け取った抗体の影響で、実際には感染していなくても抗体検査で陽性になることがあります。反対に、感染して間もない時期では、まだ十分な抗体が作られておらず陰性になる可能性もあります。そのため、検査結果については「陽性だったから確定」「陰性だったから絶対に大丈夫」と自己判断せず、猫の年齢や感染の可能性がある時期などを含めて獣医師に確認することが大切です。
多頭飼いで大切なのは「FIV陽性」だけを見ないこと
FIV陽性猫と陰性猫の多頭飼いを考えるとき、「感染するか、しないか」だけに目が向きがちです。しかし実際には、猫同士がどのような関係を築けるかも重要です。FIVの主な感染経路は深い咬み傷なので、穏やかに暮らしている猫同士と、毎日のように激しくケンカする猫同士では感染リスクが違います。新しい猫を迎える場合は、FIVの有無にかかわらず、猫同士の相性を確認しながら時間をかけて慣らしていく必要があります。FIV陽性という理由だけで「多頭飼いはできない」と決めつけず、それぞれの猫の性格や関係性まで含めて考えることが大切です。
まとめ
FIVは、猫同士の関係が安定していれば、FIV陽性猫と陰性猫が一緒に暮らすことも可能です。一方、激しいケンカをする関係なら感染リスクがあるため、生活空間を分けるなどの対応が必要になる場合があります。FIVがどのように感染するのかを知ったうえで、その猫たちの関係を見ることが重要です。
次回は、FIVキャリア猫に起こる可能性がある症状と、健康に暮らすために飼い主ができる生活管理について紹介します。


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