「帰ってもお迎えしてくれなくなるんですよね」
以前、慢性腎臓病の猫と暮らしている飼い主さんから、そんな話を聞いたことがあります。その飼い主さんは、獣医師の指導を受けながら、自宅で猫の皮下点滴をしていました。猫にとって点滴は決してうれしいものではありません。その飼い主さんによると、点滴をするようになってから、それまで毎日していた玄関へのお迎えをしなくなったそうです。もちろん、飼い主さんを嫌いになったという話ではありません。ただ、点滴を警戒するようになったことで、それまで当たり前だった習慣のひとつが変わってしまった。
私はその話が印象に残っています。
猫の腎臓病というと、検査数値や療法食、薬などに目が向きがちです。しかし実際には、治療やケアが始まることで、猫との日常にも変化が生まれることがあります。今回は、猫が慢性腎臓病になるとどのような治療やケアが必要になり、暮らしがどう変わる可能性があるのかをまとめました。
猫の慢性腎臓病とは?
慢性腎臓病は、腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。特に高齢猫で多く見られ、一度失われた腎臓の機能を元に戻すことは難しいため、早期に発見し、残っている腎機能を維持しながら進行を抑えることが重要になります。初期には目立った症状が出ないこともありますが、進行すると次のような変化が見られることがあります。
・水を飲む量が増える
・おしっこの量が増える
・食欲が低下する
・体重が減る
・嘔吐することが増える
・毛づやが悪くなる
・元気がなくなる
・寝ている時間が増える
こうした変化の一部は、「年を取ったから」と見過ごされやすいものです。特に高齢猫では、以前より寝る時間が増えたり、動きがゆっくりになったりしても不思議には感じにくいでしょう。普段から体重や食事量、飲水、排泄などを確認しておくことが、変化に気づく手がかりになります。
腎臓病になると食事や水分管理も変わる
慢性腎臓病と診断されると、状態に応じて腎臓病用の療法食が提案されることがあります。ただ、猫によっては新しいフードをなかなか食べてくれないこともあります。また、腎臓病では食欲そのものが低下する場合もあるため、「療法食を食べてくれない」という問題に悩む飼い主も少なくありません。食べない状態が続けば別の問題につながる可能性もあるため、療法食を食べない場合は自己判断で無理に続けるのではなく、獣医師と相談しながら食事を考える必要があります。
また、腎臓の機能が低下すると尿を濃縮する力が弱くなり、尿量が増えて脱水しやすくなります。そのため、水分を十分に摂取できる環境づくりも重要です。水飲み場を複数用意する、猫が好む器を使う、ウェットフードを活用するなど、その猫が水分を摂りやすい方法を探していきます。
そして、食事や飲水だけでは十分な水分を補えない場合などに行われることがあるのが、皮下点滴(皮下補液)です。
自宅で飼い主が皮下点滴をすることもある
皮下点滴という言葉を初めて聞くと、「飼い主が自分で猫に針を刺すの?」と驚く人もいるかもしれません。慢性腎臓病の猫では、猫の状態に応じて、獣医師の指導のもとで飼い主が自宅で皮下補液を行うことがあります。皮下に針を刺して輸液剤を入れ、水分を補給する方法です。必要な量や頻度は猫の状態によって異なり、すべての慢性腎臓病の猫に必要になるものではありません。
自宅で行うメリットのひとつは、通院の負担を減らせることです。動物病院への移動が苦手な猫なら、頻繁な通院そのものがストレスになることがあります。また、病院で毎回処置を受ける場合と比べて、費用を抑えられるケースもあります。一方、自宅なら猫が喜んで点滴を受けてくれるというわけではありません。
最初に紹介した飼い主さんの猫も、皮下点滴を始めてから、それまでしていた玄関へのお迎えをしなくなったそうです。だからといって、飼い主さんを嫌いになったわけではないでしょう。ただ、「この人につかまると点滴されるかもしれない」と警戒するようになった可能性はあります。
治療が必要なのは分かっていても、それまで続いていた猫との習慣が変わってしまうことがある。これも自宅でケアを続ける中で起こり得る変化のひとつです。
トイレや室内環境にも配慮が必要
慢性腎臓病では尿量が増えることがあるため、トイレを使う回数も増える可能性があります。また、病気の進行や加齢によって体力が低下すれば、トイレまでの距離や大きな段差が負担になることも考えられます。猫がよく過ごす場所の近くにもトイレを用意する、出入りしやすい高さのものを選ぶなど、その猫の状態に応じて環境を見直すことも大切です。高い場所が好きだった猫でも、以前のように上れなくなるかもしれません。お気に入りの場所まで行きやすいようにステップを設置したり、床に近い場所にも落ち着ける寝床を用意したりする方法があります。
病気になった猫に今までと同じ行動を求めるのではなく、その時の猫に合わせて住環境のほうを変えるという考え方も必要になります。
飼い主の日常も変わる
慢性腎臓病になると、変わるのは猫の生活だけではありません。定期的な診察や血液検査、体重測定、食事管理、投薬などが必要になる場合があります。自宅で皮下点滴をするようになれば、それも日常のケアに加わります。さらに、食欲や飲水量、尿量、嘔吐の有無、活動量など、以前より細かく猫の状態を見ることも増えるでしょう。
すべてを記憶しておくのは難しいので、体重や食事量、気になった症状、通院日などを簡単に記録しておくと変化を把握しやすくなります。診察時に獣医師へ状態を伝える際にも役立ちます。こうした管理やケアが増えることも、慢性腎臓病になったあとの生活の変化です。
「いつもと違う」を見逃さない
慢性腎臓病になったからといって、すべての猫が同じ経過をたどるわけではありません。必要になる治療も、生活の変化もそれぞれです。ただ、食べる量が減った、水を飲む量が増えた、寝ている時間が長くなった、高いところに上らなくなったなど、日常の小さな変化が体調を知る手がかりになることがあります。
そのためにも、健康なうちから「この子は普段どのくらい食べるのか」「どのくらい水を飲むのか」「どこで過ごすことが多いのか」などを知っておくことが大切です。いつもの行動を知っているからこそ、「いつもと違う」に気づくことができます。
まとめ
腎臓病の初期症状などの知識はありましたが、実際に腎臓病の猫ちゃんの飼い主さんの話を聞くまでは食事、水分、トイレ、住環境、通院、毎日のケア、ここが変わる想像はしてませんでした。病気になったあと、猫との暮らしがどのように変わる可能性があるのか。それをあらかじめ知っておくことも、猫の慢性腎臓病について知ることのひとつではないでしょうか。


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