ねこニュース 【追悼】外交官猫パーマストン、バミューダで急逝

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イギリス外務省(Foreign Office)の「ネズミ捕獲長」として、ロンドンの政界のみならず世界中の動物ファンに愛された猫「パーマストン」が、余生を過ごしていたバミューダ諸島で虹の橋を渡りました。
Former Foreign Office cat Palmerston dies in Bermuda

元外交事務次官のサイモン・マクドナルド卿の愛弟子として、また首相官邸のラリーの「宿敵」として、激動の英国政治を支え続けた一匹の猫の、波乱に満ちた生涯を振り返ります。

保護猫から「外交の顔」へ:華麗なるキャリアの幕開け

パーマストンの伝説は、2016年にロンドンの有名な動物保護施設「バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム」から始まりました。当時のイギリス外務省は、歴史ある建築物ゆえの慢性的なネズミ被害に悩まされており、公式な「ネズミ捕獲長(Chief Mouser)」のポストを設けることになったのです。

そこで白羽の矢が立ったのが、当時2歳前後だったタキシード柄のパーマストンでした。名前の由来は、19世紀のイギリスを代表する外交官であり首相も務めた第3代パーマストン子爵。気高く、それでいて親しみやすい彼のキャラクターは、着任直後から職員やメディアを虜にしました。

彼は単なるマスコットではありませんでした。当時の外務事務次官、サイモン・マクドナルド卿(現在は男爵)は、パーマストンを正式な職員として扱い、彼に専用の入館証を与えました。外交官たちが会議を行う廊下を堂々とパトロールし、時には重要書類の上に座り込むその姿は、「最も愛される外交官」として世界中に発信されました。

宿敵「ラリー」とのウエストミンスター抗争劇

パーマストンを語る上で欠かせないのが、ダウニング街10番地(首相官邸)の主であるラリーとの関係です。

外務省と首相官邸は隣接しており、二匹の縄張りは常に重なっていました。この「外交界のエース」と「政権の中枢」によるプライドをかけた戦いは、何度もメディアの格好のネタとなりました。

深夜の乱闘: 街灯の下で二匹が激しく取っ組み合い、毛が飛び散るほどの喧嘩をする姿がパパラッチされたこともあります。

SNSでの火花: それぞれの(非公式)X(旧Twitter)アカウントを通じ、ネズミの捕獲数や毛並みの良さを競い合う様子は、殺伐としたブレグジット交渉が続く当時のイギリスにおいて、国民が唯一笑顔になれるトピックでもありました。

こうした「不仲説」すらも、イギリスの政治文化の一部として受け入れられ、パーマストンの知名度を不動のものにしました。

突然の隠居と、驚きの「海外赴任」

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの官僚たちがテレワークへ移行しました。これに合わせ、パーマストンもまたサイモン・マクドナルド卿の私邸へと移り、静かな隠居生活に入りました。

同年8月に公開された「退職願」は、多くのファンを感動させました。
「私は最前線を離れ、静かな生活を送ることに決めました。これからは、スポットライトを浴びない場所で、大好きな木登りや野原のパトロールに専念したい」
こうして彼は一度、第一線を退いたはずでした。

しかし、2025年2月、パーマストンの物語に驚愕の最終章が加わります。かつての飼い主であり、バミューダ総督に就任したアンドリュー・マードック氏と共に、約3,500マイル離れた大西洋の島、バミューダ諸島へ「海外赴任」することが決まったのです。
役職は「バミューダ総督付・猫関係コンサルタント」。10歳を超えてなお、彼は「外交官」としての使命を果たすべく、海を渡りました。

2月12日、静かなる旅立ち

バミューダでの生活は、彼にとってまさに「黄金の引退生活」でした。総督官邸(Government House)の広大な敷地をパトロールし、暖かい海風に吹かれながら、家族としての時間を大切に過ごしていました。

しかし、2026年2月。公式の訃報が届きました。
「パルミー(パーマストンの愛称)は、2月12日に家族に見守られながら安らかに息を引き取りました。彼は官邸チームの特別な一員であり、かけがえのない家族でした。その穏やかな性格で、関わるすべての人を魅了した彼は、永遠に私たちの心の中に生き続けます」

この報を受け、かつてのライバルであるラリーも、SNSを通じて「さらば、古き友よ」と、愛ある手向けの言葉を送りました。

【ワンポイント】イギリス政治と「ネズミ捕獲長」

イギリスでは、公的機関が猫を「職員」として雇うことが一つの伝統となっています。

実利性: 古い石造りの建物はネズミが住み着きやすく、化学薬品を使わない駆除手段として猫は非常に優秀です。

親しみやすさの演出: 難解な外交や政治の問題を、一匹の猫を介することで国民に身近に感じてもらう「ソフトパワー」の役割も果たしています。
パーマストンのように、保護施設から選ばれた猫が国の顔になるというストーリーは、イギリスらしい動物愛護精神の象徴でもあります。

まとめ

パーマストンは、保護施設の片隅からイギリス外交の中枢へと登り詰め、最後は南の島でその生涯を閉じました。彼はその生涯を通じて、ネズミを捕る以上の大きな役割を果たしました。それは、言葉や国境を越え、対立する人々を笑顔にし、癒やしという名の「外交」を成功させたことです。
パルミー、本当にお疲れ様。虹の橋の向こうでは、ラリーに邪魔されることなく、大好きな木登りを楽しんでね。

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